1. 質的レビューによって、気候変動が生態系機能に与える影響は生物多様性によって緩和できることを提示
これまで、「生物多様性は気候変動の影響を緩和するか」とはっきりした課題を設けた研究はほとんどなく、トピックとして確立されていませんでした。そこで本研究では、その概念を構築するために、「環境変動下における多様性-生態系機能」に関する実験研究を中心にレビューを行いました。そして、生物多様性が気候変動の影響を緩和するためには、「環境変動の前と後で、多様性の生態系機能への正の効果が失われたり方向性を変えたりせず一貫して認められる」という条件を満たす必要があると定義づけました。さらに、レビューした既存の実験研究を、上記の条件と照合することで、初めて多様性が気候変動の影響を軽減し得ることを質的に評価しました。本研究はBiological Reviewsに掲載されました(Hisano et al. 2018/Biological Reviews)。 |
2. 種多様性の高い森林は種多様性の低い森林よりも長期的気候変動のダメージを受けにくいことを実証
カナダでは60年近くもの間、自然林の動態がモニタリングされています。そこで、本研究では乾燥化が進むカナダ西部の大規模長期データを用いて、先の研究で確立させた概念を自然生態系において検証することを目的としました。約60年にわたる長期の気候変動下では、種多様性の高い森林では、樹木の成長や新規加入によるより高い森林の生産性が見られましたが、種多様性の低い森林では、その生産量は減少しました。気候変動に伴い、全体としては枯死による森林の減少が見られたものの、種多様性の高い森林では、枯死による森林の減少は、多様性の低い森林よりも少ないことが認められました。その結果、気候変動に伴う森林の総増減量のマイナス変化は、種多様性の高い森林では種多様性の低い森林に比べて抑えられていました。この結果から、これまで得られていた小スケールにおける知見(実験研究)が、空間的・時間的に大きなスケール(自然生態系における観測)に拡大されました。そして、生物多様性が気候変動の影響を緩和させる役割は、短期的なものではなく、むしろ長期持続的であることが明らかになりました。本研究内容は、Ecology Lettersに掲載されました(Hisano et al. 2019/Ecology Letters)。 |